こんにちは。しょうたん(@v_shota_v)です。
この度、会社を辞めることになりました。
※こちらの記事は第四話です。第一話はこちら。
パン作りの日々① 技術を真似ぶ
こうして、僕のパン職人としての日々が始まりました。
初めに任されたのは「めん台」というポジションです。
パン屋さんによって役割分担には違いがありますが、僕の会社における「めん台」は、パン生地を種類ごとの重さに切り分ける「分割」と、パンの形に整える「成形」を担当します。
最初は先輩社員についていくだけでしたが、先輩も他のお店から手伝いに来ているため、僕が一日も早く自立しないといけません。何処もかしこも人手不足だといいます。
しかし見よう見まねで精一杯やってみますが、先輩方のようにうまくいきません。
「めん台」の仕事で難しいのは以下の点でした。
- 美しく成形すること
- 効率よく、手際よく作業をすること
- 常にパン生地に気を配り、最良の状態で扱うこと
- 数十種類のパンを同時進行で作るための段取りをその時々の状況に合わせて組むこと
- 他の役割の人と的確なコミュニケーションをとり全体を円滑に進めること
これらを全て出来なければ、一人前の職人としては言えません。
僕はパン職人としてお店でパン作りを始めてから約5年間、この「めん台」というポジションに関わってきましたが、これほどテキパキと作業をこなす能力が必要なポジションは無いと思います。
小学校から高校までサッカーに打ち込んだ僕が、一種のスポーツだと思うほどです。
その「めん台」のポジションを極めるために大切だったのが、兎にも角にも上手な人の真似をすることでした。
- どんな手つきで行うのか?
- より少ない手順で行うには?
- 両手を同時に使うにはどうしているか?
- 打ち粉使い方は?
- 他のスタッフへ声をかけるタイミングは?
- 丁寧にするところと効率を重視するところは?
細かいことのように思えますが、こういった1つ1つをよ〜く観察し真似をして自分が出来るようにチャレンジし続けるしか、上達への道は無いのです。
元々手先があまり器用ではない僕ですが、ひたすら先輩の真似をすることで1歩1歩、技術を身に付けていきました。
未だに僕も、自分自身が納得できるレベルには到達できていません。パンの世界には凄い技術をもった職人たちが沢山います。
上を見ればキリがない技術の世界。しかし、そんな僕でも会社からお店を任せて頂けるレベルには何とか到達できました。
「学ぶ」は「真似ぶ」ことから。を、身をもって学んだのでした。
パン作りの日々② チーフの言葉
もう1つ、僕が主に任されていたポジションに「仕込み」があります。
主に小麦粉やイースト、砂糖、塩、水を捏ねて「パン生地を作る」仕事を担当します。
「仕込み」のポジションはパン屋さんにとって最も重要な役割の一つです。なぜなら、次のような理由があるからです。
- 美味しいパン生地が作れないと、美味しい商品にはなり得ない
- パン作りの最初の工程である「仕込み」が効率よく進めないと、その後の工程全てに影響する。
- (仕込みが10分遅れれば焼き上がりは30分遅くなると言われる。)
こういった理由から、「仕込み」はベテランが担当することが多く、僕が所属した会社でも社長の許可が無いと「仕込み」を担当することは出来ないというルールが設けられていました。
僕はこの「仕込み」のポジションを、入社2年目ごろから任されるようになりました。先述の「めん台」と「仕込み」を日によって入れ替わり立ち替わりこなすようになったのです。
主にベテランが任されるポジションということで、初めて任されたとき非常に嬉しかったのを覚えています。
「これで僕も、一人前のパン職人に一歩近づいたぞ!」
そんな風に思ったのでした。
しかし、「仕込み」の仕事を一通り覚えたころ、ある事件が起こります。
ある日、僕は生地にある材料を入れ忘れ「生地作り」に失敗してしまいました。そしてあろうことか、そのことを誰にも報告しなかったのです。
失敗した生地は黙って修正しましたが、全体の工程に大幅な遅れが出てしまいました。
その日は僕の直属の上司であるチーフがお休みでした。
当時の店長はパン作りに関しての知識や経験がほとんど無く、勝手に「チーフがお休みの日は僕がパン作りを仕切るんだ」という気持ちで取り組んでいました。
その気持ちが裏目に出たのか、お店に関する全責任を背負う店長へ失敗を報告することなく、独断でパン作りを進めてしまったのです。
当然、半人前の職人が取るべき行動ではありません。
その後日、そのことを知ったチーフから言われた言葉が未だに忘れられません。
「せっかくここまで頑張ってきたのに、こういったことであなたが信用を失ってしまったら勿体無い。そんなことになったら、一緒に頑張ってきた私は悲しい。」
思えば、パン作りを必死になって覚えようと思ったのは、現場のチーフとして必死にパン作りに向き合っていた彼女に対し、少しでも助けになりたいと思ったからでした。
それまで周囲の「信用」など気にもしなかった僕が、「信用」について考えるようになった瞬間でした。
彼女の言葉に心を打たれた僕は、もう二度と同じ失敗は繰り返さないと胸に誓ったのでした。
(第五話へつづく)
※こちらの記事は第四話です。第一話はこちら。
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